ブレーキもここまで使えば大変なことに・・・

トヨタスパシオ AE111N 平成10年 走行距離177,300㎞
登録16年で17万㎞ではなく登録から11年の時は1万㎞。
中古車として購入。
ここ数年でいきなり16万㎞走破してる、という異色の経歴の持ち主(笑)
お得意さんの紹介で「ブレーキが効かなくなって恐くて走れない、とのことなので診てあげてくれないか?」
と言うお電話を頂きました。
その時点で
今どきの車でブレーキが効かなくなるなんてあるんやろうかなあ?
との疑問。
で、ご本人と電話でおはなしすると「通常の10%ぐらいしか効いてない感じ」と。
場所的にも近かったので取りあえずゆっくりうちまで来てください、とご入庫いただきました。
んで工場内に入れようと自分で運転すると
「スカッ」
とブレーキペダルが奥まで入ります。
「え~ブレーキフルード無いやん」、
と直感的にわかりました。
今度は逆に「なんで無いんやろう?」という疑問が。
リフトアップしてびっくり。
ブレーキフルードが左前輪からしたたり落ちてます。
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うわっ!なんじゃこら!
裏側から見ると
ブレーキパッドが無い
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ブレーキパッドが脱落してブレーキピストンで直接ブレーキローターを押してました。
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そのためにピストンが延びきってしまい、シリンダーから抜けたのでブレーキオイルがジャジャ漏れになったのです。
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長いことこの業界にいますが、これは初めて見ました。
ブレーキパッドの摩耗限度を越えたのに走行し続け、座金の部分も削りきってしまい最後はブレーキパッドそのものが通常通るはずのない狭いすきまをくぐり抜けて脱落してしまったのです。
外側のブレーキパッドも厚みが薄くなってます。
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運転席側のブレーキパッドも摩耗限度超えてます。
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これだけのことになるとブレーキを踏んだときにかなりの音がしてたはずなので
「ガ~、とか ゴ~、とか地の底から聞こえるような音してなかった?」
と運転手さんに聞くと
「はい、してました」
_| ̄|○
若い運転手さんなのですが、これがいまの日本の若年ドライバーを表してます。
でもね。しかたないですよ。
おっさん達の時代と違ってメンテナンスに対する知識を仕入れる興味も、身近な人でメンテナンスについて教えてくれる人もいないんですから・・・・
友達全員が「車のことはわかんね」で終わる世代ですからね。
まあいい経験をしてもらったと言うことで気を取り直して、とんでもないことになってしまったブレーキの復旧作業に入りましょう。
後のブレーキも心配になったので同時に点検。
後は半分ぐらいの減りですが、近々交換時期が来そうな感じ、と言う程度。
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これがフロントのブレーキキャリパーと呼ばれる部分。
ここのピストンを抜いて新品に交換が必要。
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上側がガリガリしたピストン(助手席側)、下が普通のピストン(運転席側)
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この時点で盆休みのため一旦お休み(爆)
盆開けましたので部品の供給も再開。
オーバーホールして復活させます。
バラバラだったブレーキキャリパーの各部品を交換していきます。
その時には劣化したゴム製品はすべて新品にリフレッシュするのが大原則。
あとブレーキは左右同時交換も鉄則です。
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キャリパーの中にあるこの黒いリング状のパッキンでフルードと外界を遮断して漏れを止めてます。
恐るべき精密な構造。
なのでピストン抜けたらフルードも抜けるわけです。
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新しいピストンが到着。
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ガリガリした右側のピストンはちょっと短くなってます (^^ゞ
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組み立てます。
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この作業を2セット終えたら、いよいよ車両側の組立。
ブレーキローターも修整なんか出来る状態では無かったので新品です。
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抜けてしまったブレーキフルードを配管内のエアを抜きながら行き渡らせます。
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あとは試運転してOK!!
復活しました。
交換した部品。
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結果的にスパシオはフロントブレーキの完全オーバーホールとなりました。
17万㎞走ってるので結果オーライだったかもしれませんが、1年間に3万㎞こえる営業車です。
これぐらい走るお車は、車検から車検までの2年間、点検無しで走りきるのは高速道路専用車でも無い限り無理です。
一般道を普通のレジャー用の車より過酷にゴー&ストップを繰り返すのですからそれなりの維持をしてあげないとえらいことになります。
正直、今回の整備は「故障」とは言えません。
消耗品の手入れ不足です。
通常であればブレーキパッドの交換、だけで済むはずだったのが「ブレーキ全損」まで拡大してしまったのですから費用も余分に掛かってしまいました。
まあでも
止まらなくて事故
にならなかったのはなによりの結果です。


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カテゴリー: 修理   作成者: てんちょー パーマリンク

てんちょー について

専門家や職人は仕事の話をするときに専門用語やら隠語を使わないとお客さんと会話できないという習性に疑問を持ち、自動車に関して自分の知ってることや機械の原理をいかにわかるように説明できるかを考え続けてるちょっと変わった自動車修理の職人。 仕事の質ももちろん、その仕事の内容をお客さんに理解してもらうことを自分自身の生き甲斐にしてるおっさんである。

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