「チョイ乗り」ばかりだと燃費が悪くなる理由 ― 水温と燃料噴射量の関係
うちの車燃費が悪い、と言う場合どうしても「作ったメーカが悪い」、とか「故障してるんと違う」とか思いがちですね。
だいたい燃費が悪い、という場合何と比べて燃費が悪いと言いますか?
たぶんカタログに書いてある燃費データーとか同じ車(同じサイズの車)に乗ってる人の話などを比較対象にして「なんだかウチの車」と感じることが多いのではと想像します。
でも以外にも原因は他にもあるんです
近所のスーパーへの買い物、子どもの送り迎え、駅までの送迎……。走行距離が2〜3kmのような「チョイ乗り」を繰り返していると、カタログ燃費や普段の感覚よりも実際の燃費が悪く感じること・・・
違います、実際に悪いんです。
これは決して気のせいではなく、エンジンの制御上、きちんとした理由があります。今回は「水温(冷却水温)」と「燃料噴射量」の関係から、その仕組みをできるだけわかりやすくお知らせします。
エンジンは「冷えている間」燃料を多めに噴射している
ガソリンエンジンには、エンジン始動直後や冷えている状態(水温がおおむね90℃前後に達するまで)は、通常運転時よりも燃料を多めに噴射する制御が組み込まれています。これは一般に「暖機増量(ウォームアップ・エンリッチメント)」と呼ばれるものです。
(整備士としては普通の制御でとりたてて驚くことでもないです)
理由は主に次の2つです。
・ 燃料の気化がしにくい:エンジンが冷えていると、空気を吸うための筒やエンジンのシリンダー内の壁の温度が低く、噴射したガソリンが十分に気化せず一部が液体のまま残ってしまいます。
そのままではちゃんとガソリンが燃えないので、あらかじめ多めにガソリンを噴射して必要な量を確保しています。
(昭和時代の世代なら”チョークを引いてエンジンを掛ける”てな操作をしていたと思いますが理屈は同じです)
・ エンジン各部のフリクションが大きい:オイルの粘度が高く、金属部品のクリアランスも設計値と異なるため、安定した燃焼と回転を保つにはある程度濃いめな状態が必要です。
この増量分は水温センサーの値をもとに逐次計算されており、水温が上がるにつれて徐々に減っていき、通常はおおむね80〜90℃前後で「補正なし(増量ゼロ)」の状態に落ち着きます。
つまり、この水温域に到達するまでの時間が長ければ長いほど、増量された燃料を消費している時間も長くなるということです。
冬場はエンジンがスタートするときの温度が低いため夏場より一層増量されている時間が長くなります。
チョイ乗りでは、走り出してすぐに目的地に着いてしまうため、この水温域に届く前にエンジンを止めてしまうケースが多くなります。
結果として、多くの燃料を使う「暖機中の状態」の割合が実走行全体に占める比率が高くなり、平均燃費が悪化してしまうのです。
データで見る「冷機時」と「暖機後」の燃費差
この点を裏付けるデータとして、国立研究開発法人 交通安全環境研究所(現・自動車技術総合機構)の鈴木央一氏らによる研究報告を見つけたので書いておきます。
この報告では、実際の燃費値がカタログ値(モード燃費)より低くなる原因を、気象条件・走行状態・エアコン使用など複数の要因に分けてシャシダイナモ試験で定量化しています。
その中で、冷機状態からスタートする走行モード(JC08Cモード)と、あらかじめエンジンを暖機してから走行するモード(JC08Hモード)の燃費を比較した結果が示されています。

この比較によると、通常のガソリン車では、
冷機状態からの走行(JC08Cモード)は、暖機後の走行(JC08Hモード)に比べておおむね2割程度燃費が悪化する
という結果が得られています。車種による差は比較的小さく、多くの車で同様の傾向が確認されたとのことです。
「チョイ乗り」の多くはこの冷機状態のまま走行が終わってしまうため、燃費を数字として気にしていない人でも、「なんかガソリン減るのが早い」と実感しやすいのではないでしょうか。
参考までに、同報告では気温そのものの影響についても触れられており、走行抵抗の違いなどから気温1℃の差でおおよそ1%近く燃費が変化するとされています。冬場に燃費が落ちやすいのは、水温が上がりにくいことに加えて、この気温そのものの影響も重なっているためです。
つまり、こういうことです
・ 水温が低いあいだ(目安として90℃程度に達するまで)は燃料が多めに噴射され続ける
・ チョイ乗りだとこの「増量中」の状態で走行が終わってしまいやすい
・ 結果として、暖機後の走行に比べておおむね2割前後、燃費が悪化する傾向がある(交通安全環境研究所の実測データより)
夏場のほうが冬場より燃費が悪い、とおっしゃられる方も居りますが、それはエアコンを使うとエンジンのパワーが冷やすための装置に奪われるからなので今回のケースとは切り離して考える必要があります。
「最近燃費が悪い気がする」という場合、必ずしも車の不調とは限らず、走り方(走行距離・使用パターン)による部分も大きいということです。
もちろん、点火系統(プラグなど)やエアクリーナー、O2センサーの状態によって、この増量制御そのものが本来より過剰になっているケースもありますので、「チョイ乗りが多いけど、それを差し引いても燃費が悪すぎる」と感じる場合は、それはそれで一度点検などうちのお店にお問い合わせください。
参考にした文献のリンクを張っておきます。
鈴木央一・山口恭平・酒井克治「公表燃費と実際の燃費、なぜ差が出るのか(第1報)―ユーザーの使用状況で起こりうる燃費変動の定量的な影響―」国立研究開発法人交通安全環境研究所, 2012年




























































